総論

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 コーディネーターとしての立場から、「日本の経験」プロジェクトを総括したのが、林武著『技術と社会――日本の経験』である。林は、本プロジェクトが、『近代日本が技術依存から自立して技術輸出するにいたるまでの過程を「開発問題」にまつわる一つの国民的経験の事例として捉える試みであった』とし、プロジェクトの成果が、技術自立への道を目指す諸国の人びととの「対話」を展開するための素材となることを願うとしている。

 林の見解では、技術の移転が技術の自立を目指したものであるならば、技術の5つの要素の独創的な組み合わせや、自国エンジニヤの創出が重要であるという。また、技術の5つの発展段階に即して、ある産業が到達した技術レベルを把握することによって、国際的な比較や対話が可能となるとみる。

 技術の5つの要素とは、(1)原料および素材(materials)、(2)器具および機械(machines)、(3)技能者および技術者(manpower)、(4)経営(management)、(5)技術および製品に対する需要(markets)の「5M」である。また、技術発展の5段階とは、(1)操作技術の習得(operation)、(2)導入した機械・設備の保守(maintenance)、(3)修理と一連の小改良(repairs and minor modifications)、(4)設計と企画(original design and a creation of system)、(5)国産化(self-reliance in technology)である。

 林は、上記の方法論に従って、プロジェクトの成果を研究会ごとに検討し、最後に、技術問題と技術政策についての5つの総括的提案を提示して、今後、それらを素材とした「対話」が起こることを期待している。5つの提案の主題は、(1)国家の役割、(2)国民的合意と基本的人権、(3)国民的技術体系、(4)国民型エンジニヤの養成、(5)技術管理(とくに公共的管理)である。