経済思想

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 明治初期から中期にかけて、産業育成の方針について、政界・言論界の指導者の間に激しい論争があった。この論争を代表するのは、近代的大規模工業の積極的導入を主張する福沢諭吉と、在来産業の保護・育成を説く前田正名(元農商務省次官)である。

 福沢は、輸入代替的近代産業の典型である綿紡績業を高く評価し、このような私企業への政府の保護・干渉を排除すべきことを主張した。

 これに対し前田は、在来産業の技術を改良し、輸出型産業として発展させることを提唱するとともに、在来諸産業の発展が国富を増大させ国内市場を拡大すると主張した。

 この論争について、本研究会の参加者は、在来産業によって培われた技術・経験が、実は、近代的大規模工業の運営や周辺産業の基盤として生かされていることにも注目すべきであると指摘している。