
Bは太平洋戦争前の政治外交,経済,思想関係の諸資料である。このうちかなりの部分は,海軍省調査課が収集したものと思われるが,B4の「機密戦争日誌」,B1-166以下「基本国策関係(其の三)」,B1-148以下の「連絡会議議事録,南方施策に関する件」,B1-156以下の「御前会議議事録 情勢の推移に伴ふ帝国国策要綱」が大本営陸軍部保管書類(防衛庁防衛研修所戦史室所蔵)の複製であること以外については,出所は明らかではない。
B1には,当時の日本の基本国策に関するものを集めた。上述の大本営陸軍部関係のもののほか,「支那事変処理根本方針」以降,開戦の詔書に至るまでの基本国策が「基本国策関係綴」(B1-166〜234)として一括されている。
B2には,中国関係,とりわけ昭和15年における汪精衛新政府との国交調整の過程に関する基本文書を収録した(B2-274〜341)(注3)。他に揚子江開放問題,仏印領空侵犯問題を収録している。
B3は南方,「大東亜」関係である。国策研究会の対南方施策要綱案(B3-350〜352)をはじめ,外務省立案の昭和14年9月「新情勢ト対南方政策案」(B3-353)と,それに対する海軍側修正案(B3-354〜357),蘭印関係(B3-361〜365)その他が収められている。
B4は「機密戦争日誌」のうち南方関係の抜萃である。抜萃は岸幸一氏自身によるものと推測される。
B5は欧米関係の資料であるが,まとまったものとしては,日独伊三国条約関係(B5-383〜391)のみであり,他に先に触れた当時の欧米情勢に対する海軍側見解を数点含んでいる。なお欧米関係についてはA3,B1をも参照されたい。
B6〜B9は,国家総動員体制に関わる基本文書である(注4)。B6〜B9は海軍省調査課の「戦後対策研究項目概要(案)」(A1-13)の「研究事項一,政治関係の中の(三)帝国政治機構ニ関スル事項,(ロ)国家総力戦ノ見地ヨリスル帝国現政治機構ノ批判」1.内閣制度,2.議会制度(以上B7),3.企画機関(B8,B9),4.国民組織ノ問題(B6),5.其の他に各々対応しており,これらの諸資料が海軍省調査課内で一括して保管されていた可能性は高いものと推察される。編者は,この方面に専門的知識をもち合わせていないので,適切なコメントは加えられないが,中央,地方の行政機構改革問題(B7),資源局・企画庁併合(企画院の設置)問題(B8,B9)に関して,これ程まとまった形で読める資料は他にないのではないかと思われる。 なお,B6近衛新体制のうち,いくつかの資料は,すでに『現代史資料(44)国家総動員(一)政治』(1974,みすず書房)の中に,「海軍文書」として収録ずみである(注5)。
B10には「現下の思想動向 第一部国内一般ノ思想動向」,「現下の思想動向 第二部教育関係ノ思想動向」, 及び「第二部(未定稿)」の3点を収めた。戦前の国家主義運動,共産主義運動,朝鮮人の活動,農村・労働界の思想状況等,戦前の思想動向全般にわたる資料である。
(注3)注精衛政府との国交調整については,防衛庁防衛研修所戦史室『大本営陸軍部 大東亜戦争開戦経緯<3>』第十章「対支大持久戦転移——往精衛政府承認」(pp.38〜67)(1973,朝雲新聞社),前掲『太平洋戦争への道』第4巻第2篇「日中戦争の政治的展開」(臼井勝美)参照。
(注4)近衛新体制については,日本政治学会編『「近衛新体制」の研究』(1973,岩波書店),『現代史資料(44)国家総動員(二)政治』(1974,みすず書房)「資料解説」(伊藤隆)を参照。また,企画庁の前身である内閣調査局については,石川準吉『総合国策と教育改革案——内閣審議会・内閣調査局記録』(1962,清水書院),資源局については,防衛庁防衛研修所戦史室『陸軍軍需動員<1>計画編』(1967,朝雲新聞社)を,さらに国家総動員体制の経済的側面全般については,『現代史資料(43)国家総動員(一)経済』(1970,みすず書房)「資料解説」(中村隆英,原朗)を,各々参照。
(注5)高木惣吉氏は,昭和14年8月15日,海軍大学校教官兼務のままで海軍省に出任を命ぜられ,「近衛新体制」研究の指示を受けた。その後,同年11月15日付で高木氏は海軍省調査課長にまい戻り,そのまま「新体制の走り使いを調査課に持ちこむことになった」(前掲『自伝的日本海軍始末記』pp.184〜185)。B6近衛新体制等の資料は,以上の経緯の下で収集されたものと思われる。
