岸幸一コレクションとは

岸幸一氏 略歴

本資料の収集者である岸幸一氏の略歴については,すでにアジア経済研究所理事笹本武治氏の追悼文「岸幸一さんの急逝を悼んで」(『アジア経済』第10巻第11号,1969年11月)の巻末にふれられているので,ここでは主なものだけを摘記するにとどめておきたい。

1938年3月,早稲田大学文学部史学科卒業。1938年9月,東亜研究所入所。1942年6月,南西方面海軍民政府嘱託(マカッサルへ)。1946年7月,復員。1948年4月,国立国会図書館へ入所。1959年6月,アジア経済研究所へ図書資料部長として入所。1963年5月,同研究所調査研究部専門調査員,1967年8月,同研究所調査研究部主任調査研究員。また,1964年3月〜10月までアメリカのコーネル大学,エール大学に出張(インドネシアに関する共同研究のため),1965年,1967年,1968年,1969年には,各々対インドネシア経済協力の基礎調査のため,インドネシアへ出張。そして1969年,この年二度目のインドネシア調査旅行の最中に氏は病に倒れられ,同年11月14日,帰国僅か二日目の朝,急逝された。

ここに収められた諸資料は,氏の主著のひとつである『インドネシアにおける日本軍政の研究』1959年,紀伊国屋書店(共著)の執筆後,再度より広い視野から,戦前日本の南方進出,「南方軍政」研究,あるいは日本と東南アジアの歴史的関係の研究をおこなうことを目的に 収集されたものと思われる。もっとも「南方軍政」関係の資料の中には,先の『インドネシアにおける日本軍政の研究』の執筆準備のため集められたものも相当程度ある。

岸幸一氏は,一方でこうした戦前,戦中関係の資料を蒐集されるかたわら,インドネシアの政治社会に関する優れた研究を次々と発表された。この研究成果は,上述の笹本武治氏の追悼文の巻末に付された主要著書・論文リストに一括掲載されている。しかし,戦前日本の対東南アジア関係については,残念ながら本格的研究成果を発表されないまま,氏は他界されてしまった。ただその片鱗をうかがわせるものとして「太平洋戦争への道としての南方政策決定と昭和研究会」(大東文化大学『東洋研究』第7号,1964年2月)と題する小論文を残されたのみである。研究半ばにして病に斃れられた氏の業績と問題関心を継承発展させる意味でも,本資料ができるだけ多くの人々に活用されることを望む次第である。