交通・運輸

この研究テーマの論文一覧を見る

 本研究会は、過去120年にわたる日本の交通・運輸網の形成を総合的に俯瞰し、鉄道をはじめとする種々の交通技術への技術革新の寄与を考察した。

 明治政府が成立した1868年当時、先進欧米諸国は、すでに産業革命を終え、新しい鉄道時代への躍進の時期を迎えていた。これに対し、日本の内陸交通・運輸は大幅に立遅れており、大河の架橋や車両の使用等も禁止されている状況であった。こうした先進諸国とのギャップを短時日の間に埋め、全国的運輸機構を確立するために、政府はまず内陸舟運・内航船舶の近代化および鉄道の導入を急いだ。それは、先進諸国の鉄道・海運産業への進出を回避し、外国資本による鉄道敷設を契機とする植民地化を阻止するためでもあった。

 このように、日本の鉄道建設は、当初より政府の政治的要請に基ずいて計画されたものであり、その後、民営鉄道の一時的な興隆をみたものの、官営鉄道としての性格は1980年代まで継続したのである。

 河川舟運は鉄道の発達におされて衰退していったが、海運業界の発達は著しかった。20世紀初めには日本の近代的造船業の基盤が確立したことから建造量が増大し、すでに船舶輸出国となっている。

 第1次大戦期を含む1910年から1921年にかけては、日本の重工業が大きく発展し、交通技術の自立がほぼ完成した注目すべき時期である。蒸気機関車や大型汽船などの国内製造も実現した。さらに、1920年代から30年代にかけては、機関車の制作を中心として国産技術の自立が確立し、鉄道交通の黄金時代ともいうべき時代を迎えた。

 自動車が日本に輸入されたのは20世紀初頭であるが、有力な公共交通機関として国内各地に普及するのは1920年代以降である。1930年代半ばに戦時体制に入るまでは、フォード車とGM車が支配的であった。日本の自動車産業が躍進を始めたのは1950年代半ば頃からである。

 戦後の高度成長期に実現を見た新幹線の技術は、先端的な車両技術のみでなく、信号・保安技術に画期的な自動化技術を採用したことも注目される。一方、モータリゼーションの進展は、鉄道に対する自動車の優位をもたらしたが、道路の整備や環境破壊への対策が求められることになった。